お気に召すまま-2

例年、新人公演は、大学の夏休みに行われ、それを経て、新人は各アンサンブルへ移っていくことになっていた。
だが、この年は、浅井が引き継いだのがすでに夏休み。
公演準備、稽古期間も考慮され、9月に入ってからの公演ということになった。
そうなると、今度は各アンサンブルの秋公演に参加したい新人は、そちらの公演に間に合わなくなる。
それだと、この年の新人は、来年の春まで各アンサンブル公演の舞台に立てなくなる。
そこで、運営委員会は、この年に限って、新人それぞれの判断で、新人公演を選ぶか、各アンサンブルの秋公演を選ぶかを決めていいことにした。
その結果、吉田は新人公演、岩谷と高泉淳子は新機劇──というように分かれることになった。
僕は、右手親指が使えない状態だったので、役者として舞台に立つことは無理。
だが、スタッフとして新人公演も各アンサンブルの秋公演もすべて参加することにしていたので、どちらかを選ぶ必要はなかった。
例年に比べて、人数の少ない新人公演になるところであったが、浅井はそこに、解散したばかりの九月会のメンバーから、まだ行き先を決めていなかった、名越寿明(のちに第三舞台旗揚げメンバー)、新井けさ子の二人を新人公演に引き入れたのだった。
さらに、九月会の主宰者で劇研の中では信頼感のある作家だった堀江寛に、シェイクスピアの『お気に召すまま』をベースにした脚本を依頼して、本気度をアピールした。
そして、従来の新人公演であれば1回限りの公演であるところを、3日間の公演を運営委員会にOKさせた。
それはすでに、新アンサンブル結成を目論む、浅井の戦略でもあった。