「ああ、鈴木さん」
手術中に担当医に話しかけられた。
「はい」
「あのね、腱だけじゃなくて、神経も切れてますねえ」
「え?」
「だから、ちょっと長い手術になりますよ」
さらに最悪ヤバイ状況に突入した。
結局、3時間超の手術となり、終わったときは、骨折のときのような石膏ギブスが、右手の甲から肘のところまで巻かれ、わずかに見える親指の爪に、銀色のボタンのようなものがついていた。
それと掌の親指の付け根辺りに、螺旋状の金属線が、皮膚から直接伸びていた。
なんだろうこれは?
「この線で固定してあるから。また動くようになるけど、動きも感覚もよくて80%くらいまでしか回復しないから、そのつもりで」
「はい……」
「3ヶ月くらいこのままね」
「3ヶ月……」
「で、今晩は入院していきなさい」
「……イヤです」
「え?」
「歩けますから帰らせてください」
「でも、麻酔もしたし、そうとうな出血だったんだよ」
「帰れます」
僕は病院嫌いだった。
「まあ、強制はできないけど……ほんとに注意して帰ってくださいよ」
「ありがとうございました」
というわけで、3時間超の手術後、入院もせずに僕は帰った。
それより、3ヶ月も右手が使えないのである。
まず、次の九月会の公演は手伝えない。
新人の身体訓練にも参加できない。
かといって、授業に出る気はなかった。
仕方がないので、毎日大隈裏へ行って、各アンサンブルの稽古やエチュードを一日中見ていた。
見ながら、いろいろなことを考えた。
梅雨から夏になり、ギブスの中は蒸れかえり、垢が何ミリか堆積しているような感じだった。