1809-6週間/booklet

偉大なるチャレンジャーたち

すでに大いなる成功を遂げた作品を新たに作り直すというのは、実にやりがいがあると同時に、もちろん難しいことである。
しかし日本における翻訳劇のほとんどは、すでにその作品の本国で、さらには諸外国で、それ相応の評価があるものがほとんどである。であるから翻訳劇を多く演出してきた僕にとって、傑作の誉れ高い『6週間のダンスレッスン』を新演出で作り直すことも、いつもの作業とそれほど大きな違いはない。戯曲だけに集中して自分の演出プランを練り、信頼するスタッフと配役された俳優にそれを委ねていく。『ディファイルド』『欲望という名の電車』『ベント』『サド侯爵夫人』『サロメ』……どれもそうしてきた。

だが、自らの手で傑作を作り上げ、200回にも及ぶ公演回数を積み重ね、その作品をライフワークにまでした女優にとって、新演出(しかも新しい上演台本)に挑むということは、草笛光子という稀有なチャレンジ精神を持った人間にしかできないことだ、と僕は思っている。だってそうでしょ、『6週間のダンスレッスン』は傑作で、大評判で、複数の演劇賞を受賞したんだし、チケットだって売れるんだから、あえて新演出なんかにしなくても、誉められるだけで誰からも何も言われやしない。だが新演出を希望し、自らに難行苦行を強いたのは、ほかでもない偉大なるチャレンジャー、草笛さんご本人なのである。
僕は新演出のオファーを受けたとき、まず驚き、そして無上の喜びに包まれた。僕はチャレンジャーを愛す。チャレンジャーにこそ魅了される。なぜなら、チャレンジャーは未来に生きているからだ。演劇に完成品はないし、成功も失敗もないと僕は考えている。あるのは可能性という未来だけ。

「マイケルはね、もうずっと前から決めてあるの」

草笛さんの熱烈なるラブコールに、臆することなく応えた松岡の男気にも打たれた。
「オレはオレのマイケルをやります」
稽古初日からそう宣言し、松岡はまさにマイケルのように稽古場を牽引した。過去をなぞろうともしない──松岡も本物のチャレンジャーだ。稽古場ではその心意気にとても助けられている。
そして、そんな草笛さんのチャレンジを快く引き受けた、プロデューサーの江口さんをはじめとする各スタッフの勇気にも大いに心打たれた。

僕がどんな演出を加えようと、『6週間のダンスレッスン』は心に沁みる名作です。現代社会が抱える様々な問題の解決のヒントが、散りばめられています。どうそ、ごゆっくりお楽しみください。

鈴木勝秀(suzukatz.)