お気に召すまま-3

新人公演において、僕は舞台監督と音響を任された。
舞台監督といっても、特に何をするわけでもなく、毎日稽古後に行われる"輪組(わぐみ)"と呼ばれる自己反省&ダメ出しの会(これが僕は大嫌いだった)のとき、発言者を順番に回す役だった。
音響としては、効果音のレコードを買い集めて、必要な効果音をカセットテープに入れて、稽古場で流す仕事。
同時に、僕が所有しているレコードから、使えそうな曲を、これまたカセットテープに録音してきて、浅井に聞かせるのも重要な仕事だった。
だが、ほとんどの選曲は任されたものの、決め曲は当然演出家である浅井が持ってくる。
浅井は早稲田小劇場が異化効果として、ギリシア悲劇のラストに森進一の演歌をかけるのを意識して、浅井は松田聖子などのアイドル歌謡曲をかけたがった。
もちろん、僕はロックやジャズの自分の好きな曲を使いたい。
このセンスの違いが、しだいに大きな食い違いとなっていくのだが、まだこのころは僕にとって歌謡曲は逆に新鮮だった。
なので、渋谷駅構内のワゴンで売られていた、有線で使い古された1枚150円とか200円の歌謡曲のシングルレコードをかなり買いあさった。
おかげで、前川清はかなりのお気に入り歌手となった。
さて、稽古はというと、「新人を鍛えるための試演会」などというお題目は完全に無視され、浅井は二年生の名越を徹底的にしごいた。
名越がこの後第三舞台の旗揚げに参加したのは、このときの浅井との確執が大きく影響していたのではないだろうか。
できあがった作品は、吉田を久保酎吉に見立てて作られた、「新」劇場の影響が色濃く出たものだった。
「新」劇場関係者を中心に概ね好評で、浅井は新アンサンブル結成へ大きく前進した。
その意味で、この新人公演は浅井にとって、またその後の展開を考えると、僕にとってもとても有意義な公演であったわけだ。