女中たち2

配役は吉田がソランジュで岩谷がクレール、で、僕が奥様。
稽古の最初の頃は、吉田と岩谷がセリフを合わせているのをただ聞いているだけ。
ときどきプロンプをしてたけど、演出などはまるでしてない。
というより、何をすればいいかがわからなかったのだ。
新人公演を演出したときは、とにかくダメを出して威圧して、「オレの言うことは絶対だ」的態度でなんとか乗り切ったが、今度は二人とも自分より上手いのだし、セリフもどんどん入れちゃうものだから、「ほう、ほう」と感心しているしかなかった。
僕がやったことは、舞台美術と照明と音響と人の手配などスタッフワークのほぼすべてで、吉田と岩谷が面倒スタッフワークに煩わされることなく演技ができる環境作りだったわけである。
もちろん、吉田と岩谷に貢献したくてLRBを始めたわけではない。
では、僕がとてもやりたかったことはと言えば、『女中たち』のラストを書き換えることだった。
(よいこの皆さんは絶対に真似をしてはいけません!)
「ラストなんだけどさ、奥様がもう1回出てきて、毒入りのお茶飲んじゃうってのどう?」
「どういうこと?」
「奥様がね、毒入りのお茶飲んじゃって、カップを壁に叩きつけて粉々にして高笑い。女中には自殺することも許さないのよ」
「おお、いいね!」
「徹底的な支配と被支配だな」
「そうそう。奥様はさ、怪物なんだよ。政治家とか資本家とか、現代社会にも通じる巨悪を象徴しなければダメでしょ。だから、人間を超えてる存在じゃないと。毒飲んでも死なない。自分以外の人間の死ぬ自由さえも奪い取る」
「おお、なんか深いかも」
「あ、それに、もともと毒もニセモノで、そんな芝居も見破ってるのよ、っていう風にも見えるかも」
「お、それもいいね。こっちはある断定力を持ってやらなきゃダメだけど、作品はいくらでも自由に解釈できるものの方が上等だ」
「それに、これ見に来る客はさ、『女中たち』の結末くらい知ってる人がほとんどだから、これくらいやった方が面白いんじゃない?」
「おお」
「じゃあ、そういうことで」
(よいこの皆さんは絶対に真似をしてはいけません!)
こののち、演出か解釈かという問題は、永遠に僕に付き纏うのである。