ご挨拶
僕には、ある作家を一時期に集中して読む傾向がある。
数年前の江戸川乱歩は、そのひとりだ。
発表順に読んだので、『二銭銅貨』『D坂の殺人事件』『心理試験』などの本格派推理小説から始まって、『赤い部屋』『人間椅子』『鏡地獄』などの奇抜な犯罪小説を経て、『怪人二十面相』に行き着いた。
『怪人二十面相』以前の、いわゆる大人向けの作品は、性倒錯や残虐趣味に溢れ、独特の歪んだ世界観に圧倒される。
どんな変態・変質者が書いているのだろう?
乱歩は、作家として成功していなかったら、間違いなく犯罪者になっていたのではないか?
そんなことを思わせる反社会的内容の連続。
それが突然、子供向けの「怪人二十面相シリーズ」なのである。
名探偵明智小五郎と小林芳雄少年率いる少年探偵団が、世紀の大怪盗二十面相をやっつける、勧善懲悪的一代娯楽作品!
それ以前の作品とのとてつもないギャップを感じた。
実は、当時作品の売れ行きが悪くなる一方だった乱歩は、売れる作品を書かなければならなくなって、子供向けの作品に手を出したらしい。
それが爆発的に売れたものだから、乱歩は次々と執筆し、シリーズは29作品にも及んだ。
だがシリーズを何作も読み進めていくと、やはり乱歩は乱歩であったのである。
「怪人二十面相シリーズ」も、やはりドロドロとした世界観に貫かれている。
中でも、主要登場人物の明智小五郎、二十面相、小林芳雄少年には、一般性のかけらもない。
はっきり言って、三人とも異常者である。
そう言えば、シャーロック・ホームズもそうだったなあ。
そんなことを考えていたとき、ビートルズの傑作「I Am The Walrus」の歌詞が頭に浮かんだ。
I am he as you are he as you are me and we are all together
明智は二十面相で、小林は二十面相で、小林は明智で、みんな一緒。
そういうことなのだ!
そして、その明智だか小林だか二十面相だかは、僕の中にもしっかりといるのだった。
ウイズ・コロナになって一年以上経った。
だが、「作りたい人」と「見たい人」がいる限り、演劇の灯は消えたりしない、という確信がある。
演劇を存続させるのは、個人個人の意志の問題なのである。
本日はご来場、誠にありがとうございます。
心より感謝致しております。
鈴木勝秀(suzukatz.)