1706-ノール/booklet

「できないことだらけ」

『ノール』は今から29年前(1988年12月)に、僕が自分のプロデュースユニット=ZAZOUSTHEATER(ザズゥ・シアター)で構成・演出をした『NORD>北へ』のリメイクである。
要するに、僕の旧作をECDにやらせてみよう!というのが、今回の公演の主旨である。

『NORD>北へ』の台本を書いた当時、僕は28歳。
400字詰めの原稿用紙に、製図用のペンで手書きだった。
それが、手直しした部分も、あとから書き加えた部分も含め、奇跡的にすべてのページが僕の手元に残っていた。
もしかしたら、いつかリメイクしようと思っていたのかもしれない。

リメイクにあたり、女性の登場人物を男性に変えたり、いくつかのキャラクターを一人にまとめたりして、ECDの編成に対応した。
だが、設定や関係性は基本的に変えていない。
一番大きな変更は、ハラの設定がベテラン刑事からキャリア組のエリート刑事に変わったところである。
セリフは、極力当時のままにしてある。
展開の仕方が下手くそだったりするが、あえて手直しはしなかった。

『ぱんきす!』を離れて、ECDと「芝居」を作ろうということになって、いくつかアイデアはあった。
最初は男子学生寮のオムニバスを書くつもりだった。
均等に出番を作れるし、合間に歌やダンスを入れて、『ぱんきす!』っぽさも残せる。
だが次第に、二十代の僕が書いた作品をECDのメンバーにぶつけて、どんなことになるかを見てみたい、という思いがどんどん強くなった。
だって、こんなチャンスは滅多にあるものじゃないでしょ。

ところで、なぜ僕はECDと関わり続けているのか?
『ぱんきす!』でなくなった今、それを考えてみた。
少なくとも「先生」であるつもりはまったくない。
「劇団ごっこ」をしているつもりもない。
もちろん「仕事」の一つではある。
だが僕は基本的に「仕事」でも、自分が楽しくないことはやらない、というスタンスでやってきた。
では?

キャリアを重ねてくると、いろいろなことが「できる」ようになる。
そして、「できる」ことがどんどん当たり前になる。
極端な話、現在僕はイメージさえスタッフに伝えておけば、具体的に僕が何もしなくても、日本の最高レベルの舞台空間を手にすることができる。
だが、ECDと芝居を作ろうとすると、そうはいかない。
「できない」ことだらけなのだ。
しかし「できない」ことに直面したとき、人間は必死に考え、工夫し、突破し、できるようにしようとする。
そしてそれこそが、実は芝居づくりの一番楽しい部分なのである。
だからキャリアを重ねていくと、その楽しい部分をかなり手放さなければならなくなる、とも言えるのだ。

『NORD>北へ』は、早稲田大学大隈講堂裏の特設テントで上演した。
劇場作りからすべてが自分たちの手作りだった。
「できない」ことだらけだった。
だから楽しかった。
本当のことを言えば、ECDにも特設テントでやらせたかった。
そのかわり、劇場全体を普通使わないところまで、隅から隅までアクティング・エリアに設定した。
どんなことになるか、僕が一番楽しみにしているのかもしれない。

鈴木勝秀(suzukatz.)