『喜びの歌』パンフレット用テキスト

『喜びの歌』背景

時計じかけのオレンジ』、『未来世紀ブラジル』的近未来。
全体主義的政治が市民を支配し、衛生的=正義という考え方が社会に蔓延している。
国家に忠誠を誓う人間は、"衛生的"の象徴である白い服を着た。
健康でいることが奨励され、病原菌の撲滅は国家の目標であった。
禁酒、禁煙が徹底され、ベジタリアンになることが求められた。
また、「犯罪者は社会の病原菌」とされ、犯罪者の排除、社会からの隔離が、徹底的に行われた。
犯罪の告発は美徳とされ、さらに犯罪を報告すると、警察から報奨金が与えられた。
防犯カメラはあらゆる場所に設置され、一般市民がおたがいを監視している。

「今何歳であるかなんて関係ない」

企画当初、僕は今回の『喜びの歌』で、1996年に作った『セルロイドレストラン』(出演:古田新太、佐藤誓、田中哲司、他/ザ・スズナリ)のリメイクをしようと考えた。
セルロイドレストラン』は、"カットアップによるテキスト作り"と"編集された演劇の上演"を試みた、個人的にとても重要な作品である。
舞台上では、ノイズと照明のフラッシュによって、過去と現在が同一空間内で、行ったり来たりする。今回もそれは同様である。だからといって、これは映像ではよくある手法なので、ご覧いただければ、ほとんど違和感を感じることはないと確信している。
『喜びの歌』のプロット展開は、基本的に『セルロイドレストラン』とあまり変わりがない。
だが、プランの段階で登場人物を3人に限定し、『セルロイドレストラン』には存在した女性キャストを排したことによって、自ずとストーリーに変化が生じることになると考えていた。だいたい、僕がこれまで書いてきたオリジナルは30本以上あるはずだが、プロット展開的には5パターンあるかないかだろう。

そしてテキスト(上演台本)を書き始めたのだが、なんといっても『セルロイドレストラン』は20年も前の作品である。自分自身も含めて、いろいろなことが現在と違う。最初はその"違い"にずいぶんと手こずらされた。自問自答……これじゃオッサンの戯言(たわごと)になりゃしないか?

だが、書き進めていくにつれ、"違い"ではなく、年を経ても"同じ=変わらない"部分に目が向くようになっていった。
人間社会の根本的な構造は、基本的には何も変わっていない。同時に、それに向き合う僕個人の考え方、価値観も……それは僕の中に深く広く根を張り続け、誰であってもそう簡単に抜き去ることができないものになっているようだ。
結果として、僕はテキストを書くことによって、現在の自分と深く向き合うという、いつもと同じこと経験することになった。結局、僕にはそれしかできない。そして、僕は自分と向き合うことが大好きなのだろう。
ただ最近では、それを若い世代の役者に投げつけるのが、かなりの楽しみになっている。

「明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ……今何歳であるかなんて関係ない」

鈴木勝秀(suzukatz.)