CLOUD/これまでのオガワのつぶやき、まとめ

稽古最終日につき。
110413
感じるためには知らなければならないと思い込んで生きてきた。しかし、情報は無限にあって、知ることは容易に限界に達する。
110414
このあと生まれてから現在までと同じ時間が経過すると、自分はほぼ間違いなくこの世に存在しない。
100415
この世のあらゆるものが相対的であるなら、自己とはなんであるのか?
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想像の世界は、想像の中で終わらせるのがよい。
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ライフログを記録し続けるということは、ある意味歴史を捏造することでもある。
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ライフログ=超個人的、超主観的歴史
110419
一人暮らし……年々住民が減り続けている郊外の公営団地に住んでいる。
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近々、民間企業に売却されることが決定している。
ほとんどの住人が保証金を手に移住していった。
行政の方針に反対しているわけではない。
新たな住居を探すのが億劫なだけだ。
いずれ誰かが適当に処理してくれるだろう。
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人間は社会的にしか生きることができない。
名前を剥奪されると、主観的には生きているのに、存在しないことになる。
他者からも実態は認識されるのに、存在しないことになる。
つまり、すでに死んでいる。
肉体的にではなく、社会的生物としての人間として。
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以前は証券会社に勤めていた。
特に思うところもなく早期退職した。
現在は退職金を切り崩して生活している。
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生活に必要なものは基本的にネットで購入している。
初老の宅配便の配達員が、日常的に出会う、唯一の生きた人間だ。
最近、買った覚えのないものの代金が差し引かれることが頻発している。
いずれ、調査をしてもらわないと。
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宅配便の配達員は、アマリさんというらしい。 
配達員は仮の姿ではないかと思う。
詩人?哲学者?
こちらの気持ちが落ち着くような声だ。
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生きるためには金を稼がなくてはならない、という前提を否定したいと思った。
勤務先に早期退職を願い出た。
上司や同僚に慰留されることもなかった。
かなりの額の退職金を手に入れた。
意外とあっさり金を稼ぐ必要がなくなった。
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貯金を1000万以上持っているホームレスをテレビで見たことがある。
家賃と税金から解放されれば、それで何の心配もなく暮らしていけるらしい。
銭湯にも行くし、たまにはレストランで食事もして、芝居も見る。
アナキストなのかもしれない。
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僧侶になろうと思ったことがある。
すべてを捨てて、人生を祈りに捧げる。
出家生活を少し調べた。
質素な生活には耐えられる。
だが、寒さには堪えられないのでやめた。
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自分の日常を何から何までコンピュータに記録する。
見たものを撮影し、メモを取り、GPSで取得した位置情報をコンピュータに送り続ける。
持っていたCDやDVDはことごとくデジタルデータに変換し、本は裁断してスキャナーで読み込み、コンピュータへ移した。
結果的に、部屋の中から人の住んでいる気配がどんどん消えていった。
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キップルという言葉を知ったのは、ディックの小説でだった。
ダイレクト・メールとか、からっぽのマッチ箱とか、ガムの包み紙とか、きのうの新聞とか、そういう役に立たないもの。
二度と読まない本、二度と聴かないCD、もう着ることはなさそうなスーツ……どこまでがキップルでどこからが価値あるものなのか?
デジタル化できれば、線引きをする必要はないので、心穏やかに処分することができる。
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デジタル・ドラッグにハマっている。
デジタル・ドラッグは容易にいくらでもコピーができる。
だから格安の値段で手に入る。
誰が何のために作り、広めているかは不明だ。
得体のしれない悪意を感じる。
110501
ネットでチェスをしている。
相手はいつもアマリさん。
宅配便の配達員とは別人物だと思うが、勝手に同じ人物だということにしている。
アマリさんは強い。
相手というよりは先生だ。
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アマリさんとチェスをしながら、デイトレードについてのチャットをする。
アマリさんは、こちらの情報を元にかなり儲けたらしい。
「なぜオガワくんはやらないの?」「金を稼ぐ気がないんです」「へえ」
デジタルドラッグを教えてくれたのはアマリさんだ。
110503
過去に結婚はした。
ずっとセックスレスだった。
気がついたらいつのまにか妻はいなくなっていた。
もちろん子供もいない。
自分でも種の保存として正しいことだと感じる。
110504
都市再開発機構の職員と名乗るウサミが、行政執行官を連れて現れた。
行政執行官はイタバシと名乗った。
このままここに居座り続けると、住基カード公的個人認証カード、社会保障カードなどから、登録された名前を剥奪すると言われた。
のぞむところだ。
そもそも、自分はすでに存在していないのではないか?
110505
自覚もなしに、人生の折り返しをとっくに過ぎていた。
このままでは生きた証が何も残らない。
そこでライフログを始めた。
所有物を次々とデジカメで撮影し、使ってないものは廃棄した。
110506
膨大な量の書籍、印刷物、写真、CD、DVDを、デジタルに変換してクラウドに貯めこんだ。
一日中やることがあるが、まったく生産的ではない。
最適な時間の過ごし方だ。
誰も見ないし、読まない。
だが、モノトーンだった人生が、カラフルなものであったかのように誤解させてくれる。
世界中が自分のために存在しているような、王者の気分さえ味わえた。
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エンドウと名乗る男と出会った。
同じ団地内に残っているようなのだが、どの棟に住んでいるのかはわからない。
まだ引っ越していない人間がほかにもいるのかもしれない。
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この団地の総戸数は1万以上あると聞いた。
今ではそのうち何戸が埋まっているのだろうか?
何人くらいがまだここに住んでいるのだろうか?
エンドウと出会って、そんなことを考え出した。
以前は隣に誰が住んでいようがまったく考えなかったのに、自分以外に誰がいるのかが気になる。
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この国の1世帯当たりの平均人数は2.5人を下回っているらしい。
これは相当数が一人暮らしをしているということを示している。
だが、一人でいるほうが孤独を感じない。
大勢の中にいたり、誰かといるのにひとりだと感じるほうが孤独は深い。
希望が絶望を生む。
110510
「あなたは、まだ考えながらチェスをプレイしている」とアマリさんに言われた。
「感じなければダメだ。考えずに感じるだけ」
「人間やめろってこと?」
「人間やめればラクになれる」
「……考えてみる」と答えた。
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ネットがなくなるような事態は起こるだろうか?
大規模テロ?大災害?最終戦争?
いずれにしろ、そのときは人類という種の滅びだ。
だが、それはむしろ大歓迎である。
種の滅びは開放のとき。
110512
雲にはやすらぎのイメージがある。
柔らかなものに包まれて孤絶した状態を想像する。
決して暗くもなく、眩しいほど明るくもない。
静かな半睡状態が保たれる。
リラックスできる。
110513
ラクゼーションに凝ったことがある。
薄暗い部屋で大の字になって横たわり、想像上のリラクゼーションマスクをつける。
自分の顔が誰からも見られていない、というイメージを持つ。
ゆっくりと呼吸をする。
鼻から吸って、口から吐く。
体の重さを感じる。
体の暖かさを感じる。
胃の暖かさを感じる。
私はリラックスしている。
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リラックスした状態に名前をつけておく。
訓練を続けると、その名前を呼び出すと、すぐにリラックスできるようになる。
リラックスした状態で、額に冷たさを感じることができると、イメージトレーニングが可能になる。
リラックスした状態で、重さと暖かさに包まれたままでいると、数分で眠りに落ちてしまう。
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コピー技術の進歩によって、音楽も映画も本もどんどん安くなった。
コピーによる劣化が減少すれば、たいていのものはコピーで十分。
値段の高い本物など必要ない。
コピーされた人生。
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動物の命はとても短い。
いやになるほど短い。
それなのにあいつは、また別のペットを飼って、同じことを繰り返す。
理由は「ペットの死を嘆いて泣きたい」らしい。
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悲しみは自分自身を解き放つことができる。
だが、愛していなければ悲しむことはできない。
悲しみは愛の終局。
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悲しみというのは、自分が一人きりでいなければならないことを身をもって知ること。
一人きりでいるということは、生きているものそれぞれの最終的な運命だから、その先には何もないってこと。
何もかも消えてしまう。沈黙。無。孤独だ。
死とはそういうものだ。
110520
人間は、完全なセキュリティを求める気持ちが強すぎる。
だが、どんなに完全だと思われる鍵をかけても、被害に遭う可能性はなくならない。
その鍵は開くからだ。
そして、その鍵を開ける方法を知っている人間がいるからだ。
セキュリティの最も弱い部分は、その「人間」である。
110521
いったい何をするために生きているのか?
そのことに捕らわれると、どうにも前に進めなくなる。
結論は、そのことを考えない、ということだ。
「愛」という概念は、そのために存在するのかもしれない。
考えさせないためだ。
110522
喜びとは何か?
そもそも、自分は喜びを感じたことがあるのか?
喜びも感じることがないのに、生きていることに意味があるのか?
生きていることに疑問を感じたときに、どうすればそこから抜け出せるのか?
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支配されていても、自分が現状に満足を感じていれば、それはOKなのか?
革命を起こす人間は、常に不満分子であるのか?
満足とは何か?
満足のレベルに個人差は必ず存在する。
物質的に満たされていても、精神的なレベルでは不満は生じる。
110524
宗教は、自ら進んで支配されるということではないのか?
だとしたら、宗教にかわるものに支配されてもいいのではないか?
絶対者。
絶対者は自分であると想定すると、それは我が儘者ということになるのか?
己の知覚から、己は逃れられない。
110525
なぜ人間は、たかだか70〜80年の生を、悩みながら生きなければならないのか?
それを考えるのが哲学だ。
哲学するためには孤独が必要だ。
ウィトゲンシュタインが、ノルウェーの小屋に籠もったのはそのためだったのだ。
ウィトゲンシュタインにしても、そうやって追い込まなければならなかったのだ。
人は、放っておけば哲学などすることはない。
1105027
「われわれ人間が進入を許されるのは素潜りが可能な範囲。それ以上は越境行為だ。エアタンクやレギュレーターを使うのは基本的に間違ってる。そういう技巧は、略奪への道につながる」
(『海の十神』ジャック&ピエール・マイヨール)
直感的に世界を理解する別の“知性”。
価値観を違うところに求めることによって、世界はまったく違ったものに見える。
そのためには、代替となる価値観を成立させなければならない。
110529
どの時代の人も、自分の生きている時代を特殊な時代だと感じるのだろうか?
もちろん、感じる自分が生きていられるのは、その時代だけなのだから、その人にとって特殊な時代であるのは間違いない。
だが、その個人にとっての特殊さと、歴史的に見た場合の特殊さは違うものだ。
どの時代も同じように人間が生きているだけなのか?
それとも、人間が生きている時代を超えて、地球は、宇宙は遙かな昔から、何も変わってはいないのか?
110530
希望をもたらすということは人を失望させる危険もともなう。
失望は、心底から信奉しているとされている人間においては、反発や敵意へとおうおうにして姿を変えるものである。
110531
なぜここにいるか?
なぜ存在者があるのか?
むしろ無があるのではないか?
110601
自然淘汰は、我々が子供を生んで育てるのに十分な期間だけ生きるように計画した。
必要以上の長命は自然に反する。
110602
現在直面している問題とは違うことに目を向けることによって、感情をコントロールすることができた。
110603
どこまで進もうが、誰かが現れて、答えなければならない疑問を投げかける。
この状況から逃れることはできない。
110604
世の中はあまりにもくだらないことで成り立っている。
戦争はなくならないし、犯罪もなくならない。
なぜ?と疑問を持つこと自体が、ムダなことなのだ。
自分が今日しなければならないことは、ものすごく限られている。
だが、ほんのちょっとでいい、エネルギーが必要だ。
諦めない気持ちが必要だ。
110605
根本は何も変わってはいないのだ。
自分は存在するのか?いかに存在するのか?人間とは何か?「生」とは何か?
テクノロジーの進歩とともに、答え方は違ってはくるが、「真実」に到達することはない。
だからといって悲観する必要もない。
問題は永遠に先送りされる。
時間は永遠に引き延ばされる。
110606
7年前のメモ1
またYahooBBの調子が悪い。インターネットに接続できない。仕方がないのでダイヤルアップで接続した。一昨年までなら、当然のことなのに、今ではものすごいストレスだ。
7年前のメモ2
メールチェックと掲示板チェックだけなら、ダイヤルアップで十分だが、いまでは仕事の最中の簡単な調べもの、確認はすべてネットでやっているので、依存度が非常に高い。接続できない、というのは、とても困る。
7年前のメモ3
もうネットなしで仕事をすることは考えられない。ある意味、それは危険なことなのかもしれない。
110608
悲しみを忘れるための特効薬は怒りだ。
怒ることによって悲しみは抑え込まれる。
悲しみを抑え込み続けるために、怒り続ける必要が出てくる。
110609
怒るにはエネルギーが必要だ。
自分の中からそのエネルギーを生み出し続けるのは、大変なことである。
だから、憎しみの対象を外部に求める。
110610
際限のない憎しみの連鎖。
誰にも止められない。
対抗できるのは許しと祈りだけ。
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己のの無意識にある欲求、衝動を見るためには、己が他者に意識的に働きかけてはいけない。
己には意味はない。
他者からの照射によってしか、己の意識下にある根元的な部分を知ることはできない。
110612
正しく他者からの照射を受け取るためには、見る・聞く・読む訓練が必要である。
さらに、見る・聞く・読む以外のあらゆる感覚器官を総動員しなくてはならない。
照射の対象となる他者もより訓練されている必要がある。
110613
生物は進化と絶滅をくりかえしながら、いまの人類へつながってきた。
つまり、人類も確実に絶滅し、次なる何かにつながっている。
ここで終わりのはずがない。
110614
われわれの時間感覚は、記憶と深く関係している。
多くを記憶すれば、時間を拡張することができるらしい。
記憶を外部脳に依存している場合、時間は縮小するのか?
すべての記憶を失うということは時間が止まるということなのか?
それなら記憶をすべて外部脳へ移してしまいたい。
110615
われわれは端末で膨大な情報や体験を共有する。
端末はもはや身体の一部だ。
自我と身体の自己同一性はもはや自明ではない。
クラウドは「個人」を解体する。
「私」は1000億のニューロンを同期させるための幻想にすぎないのだ。
個人が全体で、全体が個人になる。
110616
物は所有者の一部になる。
だから、自分のものをけなされると、自分がけなされたかのような気がする。
だが、人はそのことを忘れがちだ。
簡単に「これって使いにくい」とか言ってしまう。
そんなことでも人を傷つけることはできる。
110617
僕はライフロガーであって、ライフブロガーではない。
ライフロガーに読者はいらない。自分のためだけにやっている。
ライフログのすすめ』を書いたゴードン・ベルは、自分の日々の行いを他人に閲覧してもらうためにウェヴ上にアップするのはやめたほうがいいと忠告している。
それには同意する。
110618
テレビ番組はそのうちすべてオンデマンドで配信される。
だから視聴した番組をライフログに残す必要はない。
もっともテレビはずいぶん前からほとんど見ていない。
映画も音楽も手元に置く必要はなくなる。
110619
ジョン・マクノートン監督「ヘンリー」という映画がある。
連続殺人犯ヘンリー・ルーカスの日常をドキュメンタリータッチで撮った異色作品だ。
ヘンリーは恐ろしい。
ヘンリーの行為には物語がないからだ。
憂さ晴らし。