130725-鈴木勝秀(suzukatz.)『VOICE』に向けて

ビートルズ初体験は映画だった。
新宿武蔵野館で「ハードデイズナイト」「ヘルプ」「レット・イット・ビー」の3本立て。
まだ三十代だった母に誘われた。
1973年、中学一年。
四十年前。
おお、それはジョンの人生と同じ長さじゃないか。
そのときすでにビートルズは解散していた。
現実には、ビートルズはもういなかった。
だが、映画を見終わった5時間後には、すでに虜。
小遣いをはたいて、この年に出たばかりの『赤盤』を買った。
毎日、聴いた。
毎日、歌った。
小遣いを貯めて『青盤』も買った。
毎日、聴いた。
毎日、歌った。
歌詞カードにもなっていた内袋はボロボロ。
もっと聴きたい。
もっと歌いたい。
いつまでも赤盤青盤だけでは我慢できない。
だが、中学生の小遣いに、LPレコードは高かった。
ビートルズのアルバムは編集モノを抜かせば、全部で13枚。
毎月1枚買いたいところだけど、それはムリ。
なんとか2ヶ月に1枚は買おうと決意。
それでもコンプリートするには26ヶ月、2年以上かかる。
中学生の三年間をかけて、アルバム『Please Please Me』から『Let It Be』まで買い集めた。
『Let It Be』を買ったときの達成感、充実感を今でも覚えている。
毎日、聴いた。
毎日、歌った。
少しずつ歌詞の意味を理解できるようになった。
毎日、聴いた。
毎日、歌った。
シンコーミュージックのソング・ブックを買って、家のピアノでコードを探して覚えた。
毎日、聴いた。
毎日、歌った。
音楽のない人生など考えられなくなった。
でもだからと言って、ミュージシャンを目指そう、というような気持ちには、まったくならなかった。
歌もピアノもヘタだったから、というわけじゃない。
聴いているほうが何百倍も幸せな気持ちになれたし、創造力が刺激されたから。
聴いてるほうがいい、見てるほうがいい、というのは、消極的なことじゃない。
積極的にそうしたい人はいる。
ジュリアス・ファストの『ビートルズ』を読んだ。
定番ハンター・デイヴィスの『ビートルズ』より先に読んだのは、角川文庫で260円とお安かったからだ。
もちろん、すぐにハンター・デイヴィス版も読みたくなった。
今、手元のデイヴィス版を見たら、表紙裏に1974年6月30日に買ったことが記されていた。
あれから多分、百冊近くはビートルズ関連本を読んだ。
今でも毎年一冊か二冊は読み続けている。
ビートルズの"物語"を愛しているのだ。
ビートルズに出会えたことで、僕の人生はまちがいなく幸せで豊かになった。

「問題は、これまで言われてきたように『なぜ彼らはそんな早く解散してしまったのか?』ではなく、『どうやって彼らはあれほど長くやってこられたのか?』ということなのである」

でもなくて、『なぜビートルズはこれほど長く人びとの心の中で生き続けているのか?』ということなのである。