『VOICE』vol.1
『鈴木勝秀(suzukatz.)』は、かなり立体的なリーディングである。いわゆる「リーディング公演」というものが想起させる、サイドテーブルに水を置いて横並びにイスに座り、客席に正面を向いて綺麗な装丁の台本を読むものとは違うジャンルだと思っている。境界が溶け合った客席と演技エリアの中で、演者はコピー用紙に印刷された台本を持って、かなり動き回りながら、肉声だけを駆使してセリフを読む。自分としては、これも演劇の一つの形式だと考えている。
だが、一般的な意味での演劇と大きく違うところは、「覚える」「作り込む」というふたつの作業が極端に少ないことである。それによって、演者はどうしても演者本人の個性が、意識的無意識的を問わず、強烈に表出してしまう。さらに、舞台美術、照明、音響効果、衣裳などの、普段は演者を守ってくれるスタッフワークもほぼないに等しい。まさに、演者は丸裸の状態にされるのである。
そして、いろいろなところで発言してきたように、リーディングは音楽にとても近い。それも"歌"に近い。ディランやヒップホップがそうであるように、プリミティヴな歌は"語り"を始原としている。『鈴木勝秀(suzukatz.)』で模索しているのはまさにそれだ。歌うように語る──
セリフが歌となり、音楽となるなら、いっそのことBGMや効果音も全部、人間の声でやるのも面白いのではないか?
そこで、声(VOICE)だけで何かやってみようと企てた。
即座に主旨を理解してくれた大嶋吾郎が、最強コーラス・グループを率いて参戦を快諾してくれた。さらに、リード・ヴォーカルにあたるポジションには、音楽・演劇問わず、あらゆるパフォーミング・アーツの大海原を泳ぎ回る伊藤ヨタロウ氏が、「面白そうだね」と参加表明!
そして今回のテーマは──THE BEATLES!
特にストーリーはない。ビートルズにまつわるメンバーの発言、著述、記事などから、印象的なフレーズ、センテンスをサンプリングして、万華鏡のような(!)コラージュ・テキストを作成する。難解に聞こえるかもしれないが、テキスト全体が「歌」だと思っていただけると、案外、「なんだ、そういうことか!」と用意に腑に落ちるのではないか、と期待している。
鈴木勝秀(suzukatz.)
出演:伊藤ヨタロウ/大嶋吾郎、久保田陽子、鈴木佐江子、林麻衣子