「作り話」
僕は戯曲を常にテキストとして扱ってきたので、作家個人に対する興味がどちらかというと薄いほうである。向き合うのは純粋に作品だけ。
ところが、今回の『THE BLANK!』のベーシック・テキスト『口伝 近松門左衛門の真実』を、3年前にプロデューサーに渡されて一読した途端、これまで自分には関係ないなと思っていた、近松門左衛門の生涯に俄然興味を持ってしまった。
門左衛門の子孫である、近松洋男さんがお書きになられた『口伝 近松門左衛門の真実』は、それこそフィクションかと思われるほどの奇想天外なストーリーで、これはもう何が何でも舞台化してみたいと思った次第である。
「近松門左衛門」「大石内蔵助」「後水尾上皇」「平戸松浦党」「公界(くがい)」「赤穂塩」「塩の道」「西廻り航路」「鎖国令」「ユダヤ人老師」「スペイン詩劇」
キーワードを並べただけでも、その予想もつかない広がりが伝わるのではないだろうか。
最初に上演台本を読んだキャストもスタッフも、すぐに知的好奇心が刺激され、門左衛門の生きた時代を各自研究し始めた。現在稽古場は歴史研究会のような状態である。
だが、門左衛門の二十代に関しては、正式な資料がまったく残されていない。空白の十年なのだ。
だから『THE BLANK!』歴史研究会の面々は、あれこれ想像しなくてはならない。
しかし想像力さえあれば、思わぬ歴史物語を生み出すことができる。SFならぬHF(ヒストリカル・フィクション)だ。その物語は作り話かもしれない。だが"作り話"をすることは、個人的に何より楽しいことなのである。
鈴木勝秀(suzukatz.)